Monday, June 6, 2011

The following is an extract from “Fukushima Daiichi Nuclear Power Plants’ Accident was Never Beyond Assumption― Vulnerability of Earthquake Resistance of Nuclear Power Plant’s Core Structure Which is not Discussed” This article was in the magazine “Sekai” May 2011 and its author is Mr. TANAKA Mitsuhiko (born in 1943, former technical expert of nuclear reactor, participated in designing nuclear reactor pressure vessel of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Unit 4)

田中三彦さん(1943年生まれ。元原子炉製造技術者。パブコック日立で福島第一原子力発電所4号機の原子炉圧力容器設計などに携わる。)が「世界」2011年5月号(岩波書店)で発表した『福島第一原発事故はけっして“想定外”ではない 議論されない原発中枢構造の耐震脆弱性』から冷却材喪失事故に関係する部分を抜粋。(※は捕捉追加)

<前略>

冷却材喪失事故
結論から記せば、地震発生直後、1号機では地震時の揺れ(地振動)によってなにがしかの配管に中規模の破損または大規模の破損が生じ、そのため原発事故ではもっとも恐れられている-----しかし技術的見地からは起こることは考えられていない、それゆえ「仮想事故」というラベル付けがなされている-----「冷却材喪失事故」が起きたのではないかと、私は思っている。それは、私がいま手にできる限られたデータからの推測ではあるが、それらのデータは1号機で冷却材喪失事故が起きたことを強く示唆している。
<中略>
運転中の原発の冷却材喪失事故は1979年の米国・スリーマイル島原発事故でも起きているが、この場合はヒューマンエラーがいくつか重なったことが冷却材喪失事故をもたらしたのに対して、もし今回福島原発でそれが起きたとすれば、耐震強度上起きるはずがないとされてきたものが実際に起きたという意味で、きわめて深刻な冷却材喪失事故ということになる。そして、もしそういうことであるなら、福島原発大事故は大津波という「想定外の」自然現象によってもたらされた例外的事故、とすることはできなくなり、問題が日本中の他の原発の耐震安全性の問題へと波及する。
<中略>
一般の人間が、地震直後、1号機においてどんな事態の推移があったかを知る上で頼るべき、ある程度一貫性をもったデータとなると、これを書いている時点では「3.27事故報告書」(※3月27日に首相官邸のホームページで公表された「平成23年(2011年)福島第一・第二原子力発電所事故について(平成23年3月26日23:00現在)」のこと。その後、首相官邸ホームページからは削除されている)しかない。この報告書には福島第一原発の全6機(1~6号機)の「原子炉水位」、「原子炉圧力」、「ドライウェル圧力」(※原子炉圧力容器を格納している部分の圧力)の時間的変化の一覧表が添付されている。しかし、最も重要な地震発生当日(3月11日)のデータが開示されていないので、1~3号機が自動停止したあとの運転操作に問題はなかったか、安全弁の開固着はなかったか、などいろいろ気になるが(現在データ開示要求中)、そうした問題がなかったとすれば、12日午後に水素爆発を起すまでの1号機の原子炉水位、原子炉圧力、ドライウェル圧力の急激な変化は、典型的な「冷却材喪失事故」のように見える。

急降下した原子炉圧力と急上昇したドライウェル圧力
<中略>
あの日、地震が起きてすぐ、運転中だった福島第一原子力発電所の3つの原発、1~3号機は即座に自動停止した(4~6号機は定期点検中で停止していた)。つまり、地震計がある値を超えた地震の揺れを観測したことで、炉心に制御棒が自動的に挿入され、核分裂反応が止まった。自動停止した直後の原子炉圧力容器の圧力と水位がどう変化したかを細かく知りたいところだが、前述のように、なぜか「3.27事故報告書」には肝心の11日のデータが示されていない。その報告書において、問題の1号機の炉心の圧力と水位のデータが最初に登場する日時は、地震から約12時間経過した12日午前2時45分だ。そして驚くべきは、そのときの炉心部の圧力が約0.800Mpa(約8気圧)と、異常なまでに低いことだ。自動停止直前の圧力は運転圧力の70気圧前後だったろうから、12時間で70気圧から8気圧まで下がったことになる!こうした傾向は2、3号機には全く見られない。
<中略>
では、水位はどうだろうか。12日午前5時20分、1号機の水位は燃料棒の最上端より1300ミリメートル「上」にあった。つまり、燃料全体が水中にあった。ところが、同日午前8時49分に、水位は燃料棒の最上端より400ミリメートル「下」にあった。なんと、燃料棒が水面から40センチも上に顔を出したのだ。
<中略>
つぎに、もっとも重要かつ示唆的なデータに目を向けてみたい。それは、「ドライウェル」の圧力である。
原子炉圧力容器は、「格納容器」という構造物の中に格納されている。その格納容器は大きく2つの構造からなる。一つは、原子炉圧力容器を文字どおり格納しているフラスコ状の「ドライウェル」、もう一つは「圧力抑制室」(サプレッションプール、あるいはウェットウェルとも言う)<中略>この2つの構造-----ドライウェルと圧力抑制室-----は、合計8本のベント管で連結されている。
この巨大な格納容器の存在理由はただ一つしかない。原子炉圧力容器に出入している配管のいずれかが破損や破断するなどして、放射性物質を含む冷却材がその損傷箇所から一気に外界に噴出しないよう、ただそれはある。要するに、冷却材損失事故という仮想事故のための巨大な防護壁である。内部に水素ガスが入り込んできても爆発しないように、原発の運転中、格納容器内には窒素ガスが封入されている。また圧力は大気圧(約1気圧)よりほんの少し低く設定されている。
一方、格納容器には、「設計圧力」と「設計温度」というものもある。これは、再循環系の太い配管破断して冷却材が格納容器内に一気に噴出した場合の、格納容器にかかる推定圧力と推定温度だ。圧力は約4気圧、ドライウェル温度170℃前後である。格納容器は、これらの圧力、温度にもちこたえるように構造設計されている。
さて、「3.27事故報告書」によれば、12日午前2時45分、1号機のドライウェル圧力は大気圧を含めた「絶対圧」で0.941Mpa(約9.4気圧)だった。通常、構造設計においては大気圧(1気圧)を差し引いた「ゲージ圧」というものが使われているので、1を差し引いてゲージ圧に直すと、約8.4気圧になる。これは、すぐ前で説明した設計圧力(約4気圧)のじつに2倍の圧力である!巨大な格納容器がいつ破裂しても不思議ではない、ひじょうに高い圧力だ。地震発生からわずか半日、なぜ1号機の格納容器にはそんな高い圧力がかかっていたのか?
理論的に矛盾しない答えを見いだすのはそう難しくない。強い地震にさらされたために、原子炉圧力容器を出入している管のうちいずれかが-----たとえば、かねがね地震時の健全性が問題にされてきた再循環系配管が-----破損(または破断)し、そこから冷却材が大量かつ継続的に噴出する冷却材喪失事故が起こり、そのために格納容器の圧力がどんどん上昇し、設計圧力の2倍まで達した、というのがその答えである。
配管が破損すれば原子炉圧力容器の圧力は短時間のうちにかなり降下するはずだし、その破損箇所から冷却材が大量に噴出すれば、原子炉圧力容器内の水位は次第に下がっていくはずだ。事実、データがそれを物語っている。すでに述べたように、12日午前2時45分までには、原子炉圧力容器の圧力はわずか約8気圧まで下降していたし、冷却材水位は、12日午前8時49分に燃料棒の最上端より400ミリメートル「下」まで落ち、同日13時38分にはなんと1700ミリメートル下まで達していた。約4メートルの燃料棒のうち4割以上が、水面から顔を出してしたのだ。
そして最悪なことに、それからほぼ2時間後の15時36分、1号機の最上階(普通、オペレーションフロアと呼ばれている)で、大規模な水素爆発が起きた!必然的な結果である。
繰り返せば、以上の推論過程には大津波も全交流電源喪失も一度も登場しない。大津波がこなければ全交流電源喪失もなかったかもしれないから、水素爆発というきわめて危険な事態を回避することは、あるいはできたかもしれない。しかし、冷却材喪失事故そのものを回避できたわけではない。
<途中省略>

圧力抑制室の耐震性に問題はなかったか
2号機の爆発がなぜ圧力抑制室の近傍で起きたのかは、たぶん重要な問題だ。爆発したのはやはり水素だろう。記者会見などでは“異音がした”と表現されているが、原子炉建屋の地下部分での爆発だから、何かこもった音に聞こえたにちがいない。
水素の発生場所は、当然原子炉圧力容器の中だ。その中で、高温になったジルカロイ(※ジルコニューム合金)被覆管が水蒸気と反応して水素を発生させた。水素は軽いから、自然に地下に降りてきて、そこに溜まることは考えられない。しかし、水素が地下に降りてくるルートが一つだけある。それは原子炉圧力容器から逃がし安全弁と配管を経由して、圧力抑制室に入るルートである。圧力抑制室が正しく機能していれば、その中で水素が爆発することはない。なぜなら、圧力抑制室には窒素が封入されているからだ。ではどのような場合、水素爆発起きるだろうか。一つの可能性として、やはり圧力抑制室が激しい地震の揺れによって、圧力抑制室の構造的に脆弱な部位(たとえば、エクスパンション・ベローズやエビ胴の溶接部)に亀裂が入り、そこから水素が漏れ出して爆発したといことはなかっただろうか。

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